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私たちはこの惑星の上に生き残れるか?
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さて、前回はぼくがどのようにして環境問題に関心をいだくようになったかを書いていたのでした。そして最後の方で、われわれ現在に生きている人間の権利と未来世代の権利が非対称で不公平だということを問題にしていました。その間、みなさんよくご存知のようにニューヨークとワシントンDC に対する何者かによるテロ攻撃が世界を震撼させました。それに対して、ブッシュ大統領は証拠もないまま即戦争宣言をし、アメリカ議会も党派を越えてこれを支持しました。日本の小泉首相も、ブッシュ氏の戦争宣言を支持しました。ぼくは、こんなに早く世界にカトストロフィーをもたらす事態が到来するとは思っていませんでした。もう少し時間の猶予があると思っていました。

第一に、戦争は最大の環境破壊です。これは多面的に総合的に検証されなければなりません。湾岸戦争による環境破壊に関して、日本の「環境総合研究所」が詳細な調査報告をしています。第二に、9 月11 日のテロに関して首謀者とみなされているオサマ・ビン・ラディン氏はインタヴューで、核兵器の使用もほのめかしているそうです。対するアメリカのブッシュ大統領も、あらゆる武器の使用を制限しないと言っています。当然、今後の報復合戦の中では核兵器、あるいは生物化学兵器、細菌兵器などが使用される可能性があります。

もしそうなれば、被害はチェルノブイリ原発事故などをはるかにしのぐものになるでしょう。そして、その被害は戦闘地域だけでなく、全世界に及ぶものになるでしょう。現時点でもさらなるテロ攻撃の可能性は、世界の主要都市、あるいは原発とその関連施設など、あらゆる所におよびます。人類は本当に「パンドラの箱」をあけてしまったのでしょうか?そうだとすれば、未来世代に対する責任や義務を行おうにも、とうの我々の世代が消滅してしまうことになりかねません。ある意味、20世紀において世界中の資源を集積し搾取しながら繁栄を謳歌してきたわれわれの世代に対する、大いなる罰かもしれません。また、その繁栄は世界的な不公平、富の分配の不公正の上になりたっていただけではなく、勝者に圧迫された世界の多くの人間たちの血の海の上になりたっていたのだと思います。

FAO によると、毎日35,615 人の子供たちが飢餓のために死んでいます。テロの犠牲者を悼む気持ちは変わりませんが、同時にこの子供たちの死を、世界のほとんどの人間が無視していることにやりきれない憤りを感じます。これも姿を変えたテロではないでしょうか?戦争が行われようとしているアフガニスタンでは、国連やNGOなどの食料援助が途絶えた今、500万人が餓死しようとしています。これらの人たちの頭上に爆撃することを、国際社会は黙認するというのでしょうか?あまり象徴的に語りたくはないのですが、今回のテロ事件はそれが誰によって行われたにせよ、アメリカが体現してきた20 世紀的な「価値」、すなわち成長を前提とする「大量搾取、大量生産、大量消費、大量廃棄」型文明の終焉を告知するもののように思えてしかたないのです。大げさに言えば、一つの文明の終焉の始まりを現わしているように思います。ワールドトレードセンターは世界の金融システム、すなわちグローバリゼーションのセンターであり、その象徴的存在でした。そうであるからこそテロリスト達はそれをターゲットにしたのでしょう。

ぼくはこれをただ頭の中の想像だけで言っているのではありません。TV や写真でしか見ることができませんが、かつて巨大なビルを形成していたあの膨大ながれき。あれらはもともと地球のあちこちから集められてきた資源です。文明とは地球の資源を最大の密度で集積することだ、と言わんばかりの多さです。そしてその文明を一瞬にして、たくさんの犠牲者とともにがれきの山にしてしまったのも、科学技術という現在われわれがもっている文明の力です。言わば文明が文明を自己否定した瞬間とも呼べるかもしれません。同じような図式が、金融についても言えます。あのテロは象徴的なだけではなく、実質的にも世界の金融システムに少なからずダメージを与えました。伝えられるところによると、首謀者と目されるオサマ・ビン・ラディン氏はその同じ金融システムを使って大きな利益をあげ、それがテロリスト達の資金源になっていると言われます。まるでこれは、一つのシステムに入りこんで内からそのシステムを崩壊させていくエイズ・ウイルスのようです。

21世紀は、世界中の人間がいつ起こるとも分からないテロにおびえ、それに対抗する政府の監視のために自由と人権が制限された社会になるのでしょうか?巨大な富と軍事力と情報力をもった者が今後さらに世界の一極化を進めるのでしょうか?今回のテロが、自分の生き方を含めた世界のあるべき方向を考えるきっかけを与えてくれました。採掘のために巨大な資本を必要とする化石燃料に依存せず、分散型のエネルギーを供給し、CO2 を大量に排出し遠隔地から資源や物資を輸送するのではなく、地域の資源を最大限に利用すること。同じ惑星に生きる他の生物の多様性と未来世代の権利を充分に考慮した資源の利用と循環システムを構築すること。富の分配の不平等をなくし、互酬的な関係を築くための地域通貨やエコバンキングなどを利用した、金融システムの改革。時間がかかりますが、これらのことが行われない限り、つまり富の集中と人間と自然に対する搾取がなくならない限り、われわれはテロや世界戦争の危険に怯えて暮らすことになります。その先にあるのは、何でもありの総力戦による生命の消滅です。

坂本龍一 20010926

環境オンラインマガジン『ザ・ブリッジ』より
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