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2000年5月24日、毎日新聞夕刊に掲載されたインタビュー記事
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坂本龍一さんに聞く「共生」と「救済」
地球の資源と人口は臨界点


 昨年来「すべての疲れた人」の心を捕らえているピアノ曲「エナジー・フロー」(リゲインCM曲)を作った音楽家、坂本龍一さん(48)が、米国から一時帰国している。イエローマジックオーケストラ(YMO)のワールドツアーから20年。最近は「救済」や「共生」をテーマにした作品や発言が目をひく。かつて「テクノ・ポップ」の旗手として、日本人に対する固定観念を逆手に、鋭く過激なイメージを世界に放った教授≠ヘ、本当に癒し系≠ノなったのか。東京・青山のスタジオを訪ねた。【中島みゆき】

 ----「エナジー・フロー」は癒しの曲として作られたのですか。
「癒し系の曲を」という発注だったんです、CM用に。ぼくは「いわゆる『癒し系』の曲にはなりませんけどいいですか」と警告したんです。で、子供のころ(ドビュシーなどの)音楽を聴いて、何ともいえない気持ちよい感覚になったことなどを思い出して作りました。ぼくの中では一応癒し系なんですけど、レコード店のコーナーで売ってるような「癒し系」とはずい分違うものです。

 ----いわゆる「癒し系」?
 いわゆる「癒し系」の音楽というのは、風とか水の音を入れたりして、一見さわやかな音楽。でも、ぼくはああいうの聴くとイライラするんですよ。音楽の質が悪いから。人間というのをマスでとらえて、スーパーマーケットなどと同じで、ある音楽を与えれば購買意欲が増えるはずだとか、気持ちが休まるはずだとかいう発想。ファシズムですよね、そういうのって。 アメリカで生まれた行動心理学。例えば、ニワトリ工場で、適切な光と飼料を与えると最大限卵を産むと。そういう研究して最大限に収益を上げるためにやっている。まったく同じじゃないですか、発想は。牛に音楽聞かせたりとか、抗生物質与えたりとか。もともと草食動物の牛に羊の肉を与えて、狂牛病になったりとか。何か間違ってるし、どこかおかしいんですよ。

 ----「癒し系」とされることに違和感がありますか。
 癒すとか癒されるとか考えて音楽作ったことないですよ。そんなこと音楽の目的じゃないものね。だけどね、偶然のように何か癒されるということはある。ぼくが高校に入った頃に、(立川で)米軍基地を撤去しようという運動があって、その時にね、「夕焼けこやけ」がだれともなくデモ隊の中に広がって、合唱になったんですって。ぼくはそれはね、そういう瞬間は、たぶん癒しだと思うんです。

 ----今の日本は、そんなに癒されたい社会なんでしょうか。
 「癒し」なんて言葉が一人歩きしていること自体がおかしいね。ただ音楽を聴いて、熱くなったり楽しんだり喜んだりしていればいいだけのことで。そういうことがあまりにもない人が多いんでしょうね。

 ----不況で心に余裕がない?
 不況というけれど、生活水準は現在の方がバブル前より高いそうです。でもね、閉塞感があるとか、不安感がある、っていうのは、ちょっと死語かもしれないけど、共同体の崩壊っていうか、理念の崩壊、権威の崩壊が原因でしょうね。 権威というのは人を縛る。それでぼくらは高校時代反抗したわけだけど、両面あって、不安とか精神的な問題に対する緩衝材というか、薬のようなね、役割を持っていたんですよね。そういうものが完全に崩壊してしまった。アメリカにも暴力があるけど、それほどまで崩壊していないんですよね。キリスト教的な正義、倫理があるんで。建前ですけど、建前がまだ機能している国ですから。日本にはそういうものがなかったので、一気に突き進んで崩壊が起きてしまった。
 それにしても、17歳、すごいね。

 ----他人の痛みに対する想像力の欠如などと言われていますが。
 想像力に頼るからいけないんです。昔のヘブライの法律で「目には目を、歯には歯を」というのは、俗説のように復讐ということではなくて、他人にしたことと等価の罰を受けるということ。小さい時から、他人を痛めつけたら、同じ痛みを与えるようにすればいいと思うんです。

 ----坂本さんは、そういうお父さんなんですか。
 基本的に、そうですね。

 ----ホームページの日記で拝見したのですが、お子さんに本を読んであげたり、されていますよね。ファーブルとか。
 うん、ファーブル昆虫記は3年かかって、今はマーティン・ルーサー・キング(牧師)の伝記を読んで、「非暴力」ということについて話し合ったりしてる。

 ----「I have a dream・・」ですね。ここ数年、環境に関する発言が増えているのには、子供たちの将来を考えて、というところもあるのですか。
 個体数が増えすぎた種が、数を減らすために崖に突進していきますよね。子供たちの世代が崖にたどりつくまでに、ぼくたちが止めなくてはいけないと思います。ぼくらの子供たちが、今のぼくの年になった時、地球がダメになってるかもしれない。(人口爆発や砂漠化の進行で)水をめぐって殺し合いが始まるかもしれない。そういう世界で生きてほしくない。次の世代の資源を使うだけでなくごみを残していく、これはインジャスティス(不公正)だから。環境問題は世代間の闘争でもあるから。

 ----そういった危機感はいつごろからお持ちになったのですか。
 1996年の終わりごろ、アフリカですごい飢餓が起きてたくさんの人が死んだ。あれが一番大きかったかな。救済できないという危機。ニューヨークにいて、テレビでバタバタ死んでいく人たちを見て、十分なシンパシーを持っているんだけれど、救済できないという構造。政治、経済、それとやはり環境問題。環境問題というのは、人間の行動全部が大きな影響を及ぼしていると思うんですよ。飢餓は砂漠化と関係していて、砂漠化をたどると、やっぱり共同体が壊された、自給自足体制が壊されたということなんですよね。それは即、環境破壊なんです。
 村という共同体があって、その周りに自然があって、その自然と共生しながら何万年もやっていた。そこに西欧社会が入ってきて木を刈り、プランテーションを作る。「お金があれば便利なものが買えるよ」と。一つの作物をずっと植えていくことで土壌が壊れる、壊れるからもっと木を切る。木がないと水害がおこり土が流出する。どんどん壊れていく。確かにお金は入るけど、家族関係も、宗教体系も、文化も壊れる。

 ----状況はかなり深刻だと。
 ここ何年か、階段でいうと3段くらい飛び上がったぐらい、危機感を感じるんです。公害にせよ人口過密にせよ、個々の問題は60年代以前からあったわけです。ただ、地球という資源と人口とのバランスでいうと、もうぎりぎり、臨界点まで来ていているという気がする。
 あのね、酸素が少なくなってくると思わない?誰も警告を発してないんだけど。地球の大気は、ものすごく微妙なバランスでできているものだから。

 ----人口が増えて、木が減れば・・。「ジュビリー2000」(重債務貧困国の債務帳消し運動)の支持を表明されたのも、そういった文脈で?
 彼らの環境が少しでも改善され、教育程度が上がれば、目の前の木を切る代わりにコンピュータープログラミングあるいは民芸品で収入が得られるかもしれない。そうすれば環境破壊が少しは和らぐ。そうしてないのは、先進国企業が安い労働力を確保するために適正な賃金を払わずに、自分たちに都合のいいところをさらっていくから。グローバリゼーションという名の、世界資本主義の問題ですよね。作られた不公正です。でも、これは止めないともう地球規模の集団自殺だから。(悪循環を)リセットしてゼロにする。たいした金額じゃないんです。日本人が1年にビール1本がまんすればいいんです。(編注

 ----東京では日焼けサロンで顔を焼く少女もいます。化石燃料を使って。
 ヤマンバ、っていうんですか、ああいう子が一人生きてるために、最貧国の子供が何人死んでるか、どれだけの森が伐採されているか。せめて、わかった上でやってほしいですね。ああいう格好で立っているだけでどれだけ二酸化炭素を出しているか。想像力とか良心には期待できない。測定装置を作ってきっちり突きつける。そしてその分、木を植える。それができないなら金を出す。車の空ぶかしなんかも同じです。石原(慎太郎)都知事には、週に一度は自家用車の都内乗り入れ禁止とか、月に一度電気を一定時間止めるとか、そのくらい頑張ってほしいですね。環境問題には強い指導力も必要です。
 解決には2方向あるのかな。一つは科学技術、もう一つは人間の心。抜本的な解決には、手あかのついた言葉だけど、共生系のライフスタイル、ビジョンを示すことだとぼくは考えています。これはダライ・ラマ(14世)法王も言っているし、ぼくたち音楽家ができるのもそういうことではないかと。こんなに崩壊しているとはいえ、大方の日本人の中には生き物に関する慈愛とか、アジア的な自然観がまだ残っていると思うんです。仏教的な倫理観とか家族観、宇宙観というものを世界に主張できるのではないかと思うんです。
 責任があると思うんです。人間なんてたった一つの種にすぎないわけですよね。植物や昆虫や動物は全然彼らに非がない。地球上に何百万という種があるのに、たった一つの種が引き起こしたことで、何億年という進化をとげてきた種が滅びている。こんな犯罪ないですよね。

 ----世界資本主義に対しては?
 60年代とは違う形の、イデオロギーに毒されていない反資本主義の動きが出てくると思います。(文芸批評家の)柄谷(行人)さんが、消費者協同組合運動を始めました。阪神大震災にバックパック一つでボランティアに来たような、ああいう力はいいですね。米ニューヨーク州のイサカ・アワーなどの地域通貨(生活や福祉に密着した、利子を生まないお金)の取り組みもおもしろい。あなた方は勝手に資本主義をやっててください、と。彼らのグローバリゼーションとは違う世界的なネットワークができるといいですね。

 ----利子はお金を自己増殖させますから。
 そう、それが一番の問題だから。

(編注) IMFと世銀の定義による重債務貧困国40カ国に対して日本が持っているODA債権残高から、日本政府が債務削減対象と認めていないベトナム、新規融資を受けたいために削減を望んでいないケニア、ガーナ、軍事政権下のミャンマーの4カ国分を除外した4000億円弱を帳消しにすると仮定。これに伴う負担を日本人1人当たりに置き換えると、向こう10年間、毎年1人約350円となる。ジュビリー2000はさらに多くの債務削減の必要性を主張している。

*これは2000年5月24日、毎日新聞夕刊に掲載されたインタビュー記事です。
(c) 2000 Mainichi Shimbun, (c) 2000 Kab America Inc.


ゥ 1999-2000 KAB America Inc.
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