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"SOTOKOTO" October 2000 Issue
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都会生まれの都会育ち、自然とはあまり縁のない生活を送ってきたぼくのような人間さえ、この5年間くらい、毎日ひしひしと環境の破壊による、人類の未来の不安について考えざるをえなくなってきた。ぼく自身は今までいろいろと人生を楽しんできたし、満足している。けれど、このままではぼくたちの子供の世代はどうなる?果たして彼らに、可能性ある未来を遺していくことができるのか?いま、たとえば一年後に小惑星が地球に衝突することがわかったとする、そうしたらきっと世界は紛争みたいな馬鹿げたことを全部やめて、科学者から政治家からみんなが集まって侃侃諤諤の議論をして何とかしようと必死になると思う。でも実は、いまはそれと変わらない状況なんだ。1年後ではないけれど、たとえば20年後には環境破壊による危機が後戻りできないくらいのものになってしまうかもしれない。
それなのに、この世界はどうなってるんだろう?
まるで何も起きていないかのように、のんきに暮らしていて、いいはずがない。
今こそ、人類の知恵を発揮するべき時なのだ。
たとえば、世界には貧しい国がたくさんある。アフリカにある最貧国といされる国々、餓えや疫病で、たくさんの人々が、なかでもとくに、小さな子供たちが、毎日苦しみにあえぎ、一日に19000人が亡くなっている。なんということだろう。貧しい国はまた、貧しいがゆえに、環境が破壊されていくことを手をこまねいて見ているしかない。あるいは、彼ら自身日銭をかせぐために、目の前の木を切らざるをえない。森林を、たとえば日本の企業が伐採していく。それを防ぐ手だてはない。経済という名の怪物が、彼らを苦しめている。
彼らの問題を、劇的なかたちで削減する方法がある。
彼らは、国として多くの債務をかかえている。そのことが彼らの生活を強く圧迫している、そのことが破壊や貧困をよりひどいものとしてしまっているのだ。債権者はいわゆるG7の国、サミットの出席者たちだ。ケルンのサミットのとき、彼らは最貧国への債務を放棄する、という画期的なアイデアを出してきた。そう、日本やアメリカ、イギリス、フランスといった国が債務を放棄することは、実はそう難しいことではないのだ!
債務を放棄したら、最貧国ではその分のお金を病人への薬にあてられる。多くの子供たちが死ななくて住む。産業をうまく育てて、森林を売り渡さないですむシステムを作ることもできるかもしれない。
かんがえてもみてほしい、アフリカで死んでいく子供たち、彼らの一人一人には、たくさんの可能性が秘められているはずだ。人類のルーツ、アフリカ。すぐれたアスリートたちが何人も頭にうかぶ、そして力に溢れたアートや音楽。大変な才能が、生きて教育を受ければ花開くはずの才能が、毎日死んでいっている。その一方で、飽食の日本では平気で人を殺す子供たちを養育するために、何百倍ものお金と資源をつぎこんできた。
ぼくは沖縄サミットにむけて、債務を放棄するべく、G7の首脳に呼びかける運動を積極的に進めてきた。U2のボノや、モハメド・アリや、ユッスーン・ンドール、そしてヨハネパウロ2世やダライ・ラマもこの運動に賛同している。
この運動は「ジュビリー2000」という。ジュビリー2000の会議は、沖縄サミットの直前に沖縄で行われた。そして、要望書を作り、首脳に直接、手渡された。アフリカなど途上国の首脳も、サミットのとき沖縄に行き、発言する機会を得た。
残念なことにサミットでは予想された通りの政治ショーが展開された。ワシントン・ポスト紙では「サミットの最悪の例」と酷評された。もっともなことだ。最貧国債務の問題も、単なる型どおりの話し合いが行われた、という印象をぬぐえない。
果たして実質的にことが進むのだろうか? 保証はない。
ところで、たった3日間、8人の男が集まって話し合うのに、800億円が浪費されたという。この2倍たらずの金で41カ国もの世界の最貧国の債務が払えるのだ!この世界はまちがっている。

SOTOKOTO2000年10月号より転載

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© 2001 Ryuichi Sakamoto

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